フィッシャー邸/Fisher House
憧れに憧れたフィッシャー邸(ルイス・カーン設計)は、
フィラデルフィア郊外のハットボロにあった。
(前にも書いた)私が繰り返し見たというルイス・カーンのビデオにも
この家は登場する。
まだ、住み手のフィッシャー夫妻もお若くて(50〜60代)、
設計に4年、施工に3年もかかったというこの家のこと、
それから建築家ルイス・カーンについて、
嬉しそうに語っておられた顔が今も焼き付いている。
建築家と建て主、そして成果物としての家が、これほど幸福に結びついた例が、
他にあるだろうか・・と思う程、
フィッシャー夫妻は本当にこの家を生涯の家として慈しみ、メンテナンスに時間をかけ、
頻繁に訪れる見学者を家に入れ、自らが家の中を説明して廻っていたという。
しかし、フィッシャー氏も、数年前に亡くなり、
そして90才を過ぎてもこの家で一人暮らししていたフィッシャー夫人も
ついに病に倒れ、この4月に100km離れた娘さんの元へ引き取られていったとのこと。
つまり、ついに、フィッシャー邸は空き家になってしまったのだった。
私は、「いい家」といえばこのフィッシャー邸がふっと思い浮かぶほど、
この家に思い入れてきたので、
住む人を失い、家具が出され、スカスカのがらんどうに見えたらどうしよう・・と密かに畏れてもいた。
けれど、その心配は、この家に一歩踏み込んだ時に吹き飛んでししまった。
住人に愛されて愛されて時を過ごした幸福な家のオーラが、
そのままに室内に残っていると一瞬にして感じることができたからだ。
「この家に入ってくる自然光は、夜明けから日暮れまで、変化に富んでいます。
宗教的ともいえるほどに、気分が高揚するときもあります。
光の筋が凹形の窓を貫通したときなど、カテドラルにいるように思われるのです。
この家に住んでみて初めて、一般の住まいが、光についてあまりにも配慮されてこなかったことに気づきました。カーンの非凡な才能のおかげで。この家に『光』というひとつの次元が与えられているのは素晴らしいことです。」
ーーーノーマン&ドリス・フィッシャー「ルイス・カーンとの7年間」より